
近年、後継者不足の解決策や成長戦略としてM&A(合併・買収)が注目されています。経済産業省の資料によると、日本企業が関連するM&Aの件数・金額は2025年に過去最多を記録しました。
しかし、数が増えればトラブルも増えます。これからM&Aを検討する中小企業の経営者が、売り手・買い手双方の視点で「失敗しないため」に押さえておくべきポイントを、最新の動向や事例を交えて解説します。
会社を譲渡する場合、どうしても「いくらで売れるか」に目が行きがちです。しかし、特に地域に根差した中小企業の場合、価格以外の要素が非常に重要になります。
売り手にとって最大の懸念は、従業員の雇用や育ててきたブランドの存続です。
ある飲食店の事業承継の事例では、創業者は「従業員の雇用、建物、ブランドを丸ごと引き受けてくれること」を条件に後継者を探しました。
結果として、地元の企業経営者がその想いに共感し、M&A後も前経営者が店長として残ることで、従業員の不安を解消し、スムーズな承継を実現しています。
経済産業省の「公正な買収の在り方に関する研究会」の資料では、「企業価値」とは単に株主の利益(売却価格)だけではないという点が強調されています。
買収価格が高くても、買収後にリストラが行われたり、取引先との関係が崩れたりして会社の基盤が損なわれるならば、それは「望ましい買収」とは言えない可能性があります。
従業員の雇用維持や取引先との信頼関係といった「定性的な価値」も企業価値の一部であり、これらを軽視する買い手には注意が必要です。
一方、買い手にとっても、あるいは売り手が相手を選ぶ際にも、徹底的な確認(デューデリジェンス)が不可欠です。
近年、中小企業のM&A仲介を巡るトラブルや詐欺的な事案も報告されており、ニュースでも「小規模M&Aトラブル」や「デューデリジェンス(資産査定)の重要性」が取り上げられています。
表面上の数字だけを信じて契約を進めると、後から簿外債務が発覚したり、聞いていた話と実態が全く異なるといった事態に陥りかねません。
M&Aは「ご縁とタイミング」と言われますが、それは単なる運任せであってはいけません。相手企業の経営方針、文化、そして「誠実さ」を見極めるプロセスが必要です。
前述の飲食店の事例では、地元の金融機関や「事業承継・引継ぎ支援センター」が間に入り、両者を引き合わせました。信頼できる第三者が介在することで、情報の透明性が保たれやすくなります。
M&Aは一生に一度あるかないかの大きな決断です。自分たちだけで判断せず、専門家の力を借りることが成功への近道ですが、ここにも注意点があります。
M&A仲介会社の中には、成約させることを優先し、無理な条件で話をまとめようとする業者も存在しないとは言い切れません。
提示された条件が適正なのか、進め方に問題がないか不安を感じた場合は、必ずセカンドオピニオン(第二の意見)を求めてください。
相談先として、公的な機関である「事業承継・引継ぎ支援センター」もひとつの選択肢です。
昨年度の新規相談件数は過去最多を更新しており、多くの事業者が利用しています。営利目的の仲介業者とは異なる視点で、親身になって相談に乗ってくれるでしょう。
M&Aはゴールではなく、企業の新しいスタートです。
売り手は「誰に託せば会社と従業員が幸せになれるか」、買い手は「その会社を本当に成長させられるか」を深く考え、必要であれば信頼できる第三者の意見を仰ぎながら、慎重に、かつ誠実に進めていくことが何より大切です。
「高いから売る」「安いから買う」という単純な判断に陥らず、会社の未来を見据えた決断をしてください。
当社でもM&Aに関する相談を随時お受けしています。お気軽にご相談ください。